一般社団法人 日本小児リウマチ学会

一般社団法人 日本小児リウマチ学会

ACTIVITIES学会活動/ダイバーシティ委員会

第31回学術集会 ダイバーシティ推進委員会企画報告
「語ろう!考えよう!垣根のない小児リウマチ医の未来」

1.本委員会の目指すもの 委員長挨拶

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2.会員アンケート調査

文責:ダイバーシティ推進委員会委員長 岡本奈美

 旧委員会からの引継ぎ課題として、中野先生・今中先生・坂東先生が中心になってアンケート調査を行っていただきました。また、データの纏めを楢崎先生・岸先生にお手伝い頂き、委員会みんなで結果検討会を行いました。
 会員数は、1991年30名→2021年615名と増えておりますが、2001年研究会から学会になった時期、2008年初の生物学的製剤承認の時期に特に増えており、女性比率も1991年3.3%→2021年40%と増加しました。特に20代、30代で女性会員割合の増加が目立ちます。日本リウマチ学会専門医・指導医に関しては、未取得者の17.5%が「目指したいが施設・症例数基準により困難」と回答されており学会からのサポートが今後の課題として見えました。育児だけでなく介護と仕事との両立により何らかの困難を感じている方も多く、被養育/被介護者の体調・ご自身の体調・経済的基盤・過重労働などが上位を占めておりました。ワークライフバランスに関しては、全体で40%が「取れていない/どちらかというと取れてない」との回答でしたが、男性37%・女性48%と男女差がありました。ワークライフバランスのために必要な事としては自身のスケジュール管理(63.3%)、職務制度の整備(58.2%)、チーム主治医制(51.9%)、経済的基盤(46.8%)、上司や同僚の理解・意識改革(45.6%)が上位を占めており、日本の医療界が抱える問題点の縮図となっていました。ワークライフバランスのためにすでに取り組まれている事には、チーム主治医制(62%)、情報共有・連絡網(58.2%)、就業時間内のカンファレンス(57%)などの回答がありました。職場への要望(図1)、社会全体のダイバーシティ推進に重要と思われる事(図2)についてもご意見を頂いており、総合すると「マンパワー不足による過重・長時間労働」「柔軟性のない就業制度」「人材登用における不透明性・性差」「脆弱な経済基盤」「育児・介護等への社会支援の不足」が問題であり解決すべきと考える会員が多いとの結果でした。もっと多くの貴重なご意見を頂いており、ぜひ個別回答もご参照ください(図下折りたたみ)。
 まだまだ社会全体として、医療界全体としてダイバーシティ推進のために改善されるべき点が多いものの、学会・委員会としては、まず小児リウマチ医としてのキャリア形成・各地域における小児リウマチ診療の体制作りや維持のための支援・啓発・情報共有を行っていければと思っております。また、アンケート調査も今後定期的に実施していきたいと思いますのでどうぞご協力ください。

図1.職場への要望
  個別回答
・昇給
・給与の増額 そうすれば外勤に行く必要がなくなり、時間内に業務が完了できる
・短時間勤務で常勤と同じ仕事内容・質を求めないこと
・休み関係なく毎日来るのが当たり前、休みを取れば他の人に迷惑がかかるから評価が下がる、みんなで疲労しましょうという古い考え方がトップだと、その下がチーム制のメリットを知っていても移行できない
・年齢によらない当直回数の公平性
・育児中の医師を1人カウントでもう雇えないなどの材料にしない
・責任者は任期制にして欲しい みんな平等に負担してほしい
図2.社会全体のダイバーシティ推進に重要と思われる事
  個別回答
・病児保育
・ワークシェアリング
・患者さんの意識改革 (会議も日中に行う)
・トップダウンによる意識の改革、環境整備
・科のトップの考え方で勤務体系が病院ごとに違うのが問題。全国共通の制度で強制的に病院が勤務医を休ませるような規定(違反が明らかになれば病院への罰則規定付き)が必要。
・児童手当の所得制限撤廃
・様々な子育て支援策における「所得制限」の廃止
・意識改革は男女ともに必要であり,1人の人間としての許容を広げる努力と社会資源が必要

3.ディスカッションパート

文責:篠木敏彦

 2022年10月16日、新潟県新潟市で行われた第31回日本小児リウマチ学会総会・学術集会において、男女共同参画委員会より名称を変えたダイバーシティ推進委員会による企画が行われた。
 男女共同参画より広い範囲での多様性の推進を扱う新生ダイバーシティ委員会として、今回のディスカッションパートでは地域較差がテーマとなった。
 以下にその内容を記し、最後に一参加者として感じたこと、考えたことを述べたい。
(以下、敬称略)

聖マリアンナ医科大学 山崎和子

 「これからディスカッションパートに移りたいと思います。今日は小児リウマチ医を目指すにあたっての障壁、特に地域較差について、それぞれの立場からディスカッションをお願いしたいと思います。いくつかのポイントを用意しています。地域較差はあるか、という事で、まずはキャリア形成において、小児リウマチ医・専門施設がない地域で小児リウマチ医を目指すためのサポートやフォロー体制について、それぞれの地域や立場の問題もあると思いますので、お一人お一人、ご所属とお名前を述べていただいた後、お話ししていただければと思います。」

岡山大学病院 八代将登

 「キャリア形成に関しては、当院では小児リウマチの研修は内科と連携しており、カンファレンスなども一緒に行っています。ダイバーシティの取り組みとしては、院内での取り組みには参加していますが、小児リウマチとして具体的に整えているわけではありません。若手で小児リウマチに関心を持っている人を勧誘していますが、それほど多くなく、臨床で興味を持ってくれてもその他のグループに行く事があるので、その人たちをどの様にして引き込んでいくかを課題としています」。

大阪ろうさい病院・大阪医科薬科大学 岡本奈美

 「岡山は広く、北の方だと小児リウマチの専門医もいないので、その地域の方は大学病院に転院して、地域では見る機会が少ないという状況でしょうか。」

八代将登

 「地域の病院とは連携していて、例えば鳥取から通っている方には、その地域の先生に生物学的製剤をこのように導入してくださいと依頼して、3か月に1回は大学病院で診るようにしています。その様にして、ベースが小児リウマチ医ではなくても、興味を持ってくれる多くの先生と連携しています。」


国立病院機構三重病院 篠木敏彦

 「私の勤めている病院は病床数が200床くらいで、その半分が小児科であり、他科が非常に少ないところです。県内の小児リウマチ患者は全身型のJIAを除いてほぼ全員来ていると推測されます。しかし、そうであっても希少疾患であるため、リウマチだけを診ているのではなく、他の疾患も診ています。当院はリウマチ学会の認定施設ではありませんので、キャリア形成の上で他院の内科との連携が大事になってきます。三重県では数年前まで大学病院にリウマチ科がありませんでしたが、女子医大から中島先生が来てくれて、大学にリウマチ科の教室が出来たので、今後さらに連携をとっていくつもりです。地域で一人だけで診療をしていると、ちょっと困ったという症例を相談することがなかなか出来ず、試行錯誤しながらやっています。若い先生に来てもらいという思いはありますが、多くに声をかけるのではなく、本当にリウマチに興味を持ってもらえそうな人にだけ声をかけるようにしています。幸いなことに、現在聖マリアンナ大学で研修をしている森翔先生が来てくれることになりそうです。また、地域で診療をしていると、知識のブラッシュアップのために学会に参加することが非常に大事だと思っています。若い人から学ぶことも多いし、特にポスター発表などで他施設の方々とディスカッションできるのは貴重な機会だと感じています。」


長崎大学病院 橋本邦生

 「私が2011年に長崎大学に赴任した当時はリウマチ膠原病グループが存在せず、ゼロから立ち上げました。学会のガイドラインや教育プログラムは充実してきましたが、実際の患者さんを目の前にすると、ガイドラインの行間を読まなければならないことが多く、そのために診療グループ間でもディスカッションをしたり、他大学や成人科も含めた色々な先生方とコミュニケーションを取りながら診療したりしていくことが大切と思い、心がけてきました。また、リウマチ専門医が一人だったので、ずっと自分だけが患者さんに張り付く訳にはいかず、他グループ、具体的には循環器,神経,腎臓グループと共通主治医制をとってきました。私が不在の時は他グループの先生方にリウマチの患者さんを診てもらい、他グループの先生がいないときは私が他グループの患者さんを診るという工夫をしていて、それは膠原病合併症を診るうえでも勉強にもなります。患者さんが少ないためリウマチ単独ではやっていけないという地方ならではの問題もあります。」

大阪ろうさい病院・大阪医科薬科大学 岡本奈美

 「小児リウマチだけでやっていけないというのは切実な問題で、これには地域較差はあまりなく、+αのサブスペシャリティを持つか、他のグループと一緒になって複合専門でやっていくことが一つの道かと思います。」


社団医療法人童仁会池田病院 今中啓之

 「鹿児島大学小児科に在籍していた頃の話をします。1991年に第1回の研究会があったころから参加しています。その時には女性の参加者は殆どいませんでした。最近は非常に女性が増えてきており、好ましいと考えています。始まった頃は大学で膠原病をしていたメンバーが殆どだったので、最近のように一人で膠原病を診ている人が多いという状況とはかなり違っています。鹿児島では、リウマチ熱の頃から大学小児科内で膠原病グループがあって、小児リウマチはキャリアアップも含め非常にやりやすかったです。キャリアアップについて皆さん考えるところがあると思いますが、まずリウマチ専門医になる必要があります。しかしアンケートを見ても、専門医を取りたいのに取れない人がいて、施設で研修できないという事があると思います。この辺りは小児リウマチ学会で考慮していただき、キャリアアップできる方法を考えていただけたらなと思いますし、小児リウマチ専門医というのを作るのも一つの方法かと思います。男女の差については、アンケートを見て分かりましたが、育児、宿直が関係していて、家庭と職場で考える必要があると思います。家庭では家族の協力が必要ですが、男女共同参画が社会的にも始まったばかりで、まだ家族が女性に協力できる体制ではないというが問題だと思います。職場では、最近は女性の比率がかなり高くなり、職場内で役割も大きくなってきているので、働きやすい環境を作る必要があります。アンケートでも宿直とか、自分の時間がとりにくいという問題があり、同僚や上司の理解が必要と思います。各学会などで努力されているので徐々に良くなっていくと思いますが、やはりまだ途上かなと思いました。人事評価も、昔から女性の方が優秀であったし、しっかりと反映していただきたいなと思いました。」


滋賀大学医学部付属病院 佐藤知実

 「滋賀医大の小児科は前教授が熱心だったこともあって、男女共同参画は比較的早かった方だと思います。女性はほとんどが既婚で子供がおり、当直をしている方が半分ほどおられ、男性医師で奥様が多忙で、育児の中心になっている方もおられます。それ以前の状態で自分が感じたのは、当直回数が不満につながるという事です。平等にするというのは非常に難しいですが、女性自身が、子供を産んだら当直をしないのだという意識が強かったので、それは少し変えた方が良く、また子供を夫に預けて病院に泊まることができるかどうかは環境にもよりますので、その様な中でそれぞれが工夫してやっていき、今の状況があるのかなと思います。もちろん強要はしておらず、夜は自分が子供を見たいという人もいるので、かっちり決めるのではなく、それぞれが考えながらお互いがやっていくのが大事かなと思います。学生によく話すのですが、医者の代わりは医者しかいない、小児科医の代わりは小児科医しかいない、小児リウマチ医の代わりは小児リウマチ医しかおらず、自分たちの外来をほかの人に代わってもらう事は出来ません。自分が結婚してから7年間子供を持つことを夫に待ってもらったのは、後進を育てるためという事があります。今は、各グループ3~4名で診療に当たるという体制が出来ています。男性に聞くと、男性も保護者面談に行きたい、授業参観に行きたい、子供が入院したらついてあげたいと、育児は義務や嫌な事ではなく男性もやりたい事だという事が分かってきました。男性も急に病気になって休むこともありますし、チーム制にして、誰かが欠けたら誰かが代わりができるという状態にして、自分一人で抱え込まないようにすることがコツなのかなと最近は思うようになり、若手の先生には折に触れてそのような話をしています。

大阪ろうさい病院・大阪医科薬科大学 岡本奈美

 「専門医制度はリウマチ学会でもまだ定まっていませんので(2022年10月時点)、小児リウマチの専門医というのが出来れば、逆に脚光を浴びるような時代になるかもしれません。診療体制をみんなで支えようと思うと、どうしても独身の男女や育児中ではない既婚者に仕事が偏るところがありますが、いかに皆さんが自分だけ損しているという思いを抱かずに、Win-Winになるよう話し合って、タスクシフトを考えるのが一つの方向性かと思われます。」


大阪ろうさい病院・大阪医科薬科大学 岡本奈美

 「岸先生にはこの学術集会企画をまとめていただきましたので、PRAJ(日本小児リウマチ学会)として何ができるかをお話しして頂きたいと思います。アンケートで一番驚いたのは20代の会員、特に男性の会員が少ないという事で、これは小児リウマチとしては危機的な状況ではないかと思いました。岸先生の方から、こういう事をしていけばいいのではとか、若手はこういう事を言っているよとか、何かアイデアなどがあれば教えて頂ければと思います。」

東京女子医科大学 岸崇之

 「皆さんの熱い思いを聞いて、自分は東京という都会で、女子医大という以前から女性が多い所で働いてシステムを整えてきたので、非常に恵まれた状況にあるのかなと実感しました。東京でも各大学に小児リウマチの専門家がいるわけではないので、当時東京医科大学にいた佐藤先生や、聖路加病院の山口先生たちと一緒に症例を検討できるような機会を作って、みんなで相談をしながらお互いに切磋琢磨してきました。MPRC(Metropolitan Pediatric Rheumatology Conference)という会なのですが、それが段々と発展し大きくなってきて、共同研究をしようという話が出たり、レジデントガイドという本を作ったりして、専門医がいない地域の人たちにも興味を持ってもらおうという取り組みを少しずつしています。学会としても、若手の医師に発信して、学会に参加してもらったり、本を書いたりしてアピールしたりして興味を持ってもらい、人を増やしていくのが大事だと思っています。研究分野としても様々なトピックがあり、いろいろなことが出来る学会だと感じていますので、その辺りを学会全体としてアピールしていけばいいと思っています。」


大阪ろうさい病院・大阪医科薬科大学 岡本奈美

 「有難うございます。地域においても学閥とか病院を超えた人と人との繋がりが重要だと教えて頂きましたし、それが今どこにあるのか分からないという方に関しても、学会に参加する、学会と繋がるという事でそれを共有していけるのではないかと思います。今はネットやSNSの時代ですので、我々ダイバーシティ推進委員会でもアンケート調査の結果もネットで公表しますし、ウェビナーとかで学習して頂ける、もしくは人と人とが繋がれる窓口になれるようにと思っていますので、こういう事をして欲しいという要望も含めて、これからのダイバーシティ推進委員会に期待して頂きたいと思っています。また、情報化委員会との繋がりという事で、SNS等も利用して、ここにこういう人がいるよとか、こういう風にしたらキャリア形成ができるよとか、私はこういう風にしているよというロールモデルのような事もホームページに載せていきたいなと思っています。お声がけをすることが有るかもしれませんが、その時はご快諾を頂ければと思います。」


4.クロージングリマークス

顧問 稲毛康司

 2クロージングで何をしゃべっていいのか、会場の外から中に入るまではちゃんと覚えていたんですが、すっかりと忘れちゃいました。というのは、岡本先生がBarbara Ansell先生の話をしてくれたからです。
 彼女は、the Queen of Pediatric rheumatology、“the Queen”なんですね。おそらく、Sir George Frederic Still先生から百何年か後に出た “the Queen”、(Still先生の次は)女性なんですね。彼女のもとには、Patricia Woo先生、Madeleine Rooney先生がいらっしゃいました。Rooney先生は、JIAのサイトカインをみて、それがエタネルセプトの話へとつづく仕事をなさいました。Patricia Woo先生はもう、素晴らしいインベスティゲーターで卓越した方です。それから同時代には、フランスのパリにはNecker 小児病院のPierre MARIE先生がいらっしゃいます。CINCA症候群とか、現在はMASと呼ばれる病態ですが、マルクをすることで血球貪食像をみつけた研究のトップの先生です。オーストラリアには、Prudence Manners先生がいらっしゃいます。
 この方たちは、すべて女性です。彼女らがPediatric rheumatologyを底上げして、今に至っています。彼女たちは皆さん、卓越しており、包容力があり、みんなを引きつけました。だから、PReS (Paediatric Rheumatology European Society)を作る動きを牽引することができたのです。ただ一方では、このような立派な女性たちを向かい入れる側の男性、社会にも(互いに尊敬し寛容が)あった。そこを紐解いていったら、ダイバーシティ推進委員会のさらなる発展があるのかなと思いました。


ダイバーシティ推進委員会メンバー(敬称略、順不同)
委員長岡本奈美副委員長山崎和子顧問稲毛康司
委員(理事)岸 崇之今中啓之
金城紀子楢崎秀彦
坂東由紀中野直子
委員(会員)佐藤知実八代将登
篠木敏彦橋本邦生